2013年3月のコラム
私は“ひな祭り”という言葉を聞くと、いつも思い出す、とても素敵なお話がありますので、今回はそのお話をご紹介したいと思います。
『私は4人姉妹の長女として育ちました。小学校3年の時に友達が、「ウチは大きなお雛様を買ったよ」と教室で自慢しました。そしてその友達が「あなたの家は女の子が4人もいるから、さぞかし立派なお雛様が家にはあるでしょうね。」って私に聞いてきました。私の家は貧しくて、人形を買うようなお金がなかったので、その時の答えに詰まってしまい、“ない”という答えが素直に言えないまま、情けない思いをしながら家に帰りました。そして、その事をお母さんに正直に話しました。そしたらお母さんは「うちの家には可愛いお雛様が4人もいるから、母さんは人形なんか
無くてもいいんだよ。」と言ってくれました。その一言がとっても嬉しくて、涙がポロポロと溢れ出ました。
そしてお風呂から上がったらビックリしました。居間の一軒幅の出窓の所に、お母さんが風呂敷を敷いて雛壇に見立てて、お風呂上りの湯気の立つ4人の娘を一人ずつ並べて座らせました。お母さんは離れて眺めたり、近くに寄って髪の形や寝巻きを整えてくれました。「どの子が一番可愛いかな?」ってお母さんが言うので、私達はみな精一杯のすまし顔でお母さんを見つめました。お母さんは腕組みをして唸っていましたが、「みな可愛い。うちのお雛様はどこの家の人形よりも一番可愛い。」と言ってくれました。その言葉に自分達はみな満足しました。
そして折り紙で着物を作り、顔を描いてくっ付けて、大きなダンボール箱に段々に貼り付けました。これが我が家の雛人形となって、何年もの間、桃の節句を祝ってくれました。高価な雛人形よりも、不揃いなこのお雛様の方が私達姉妹にとって丁度良かった…お母さんは私達にお金で買えない物をふんだんに与えてくれました。子供たちの心をいつも明るく受けとめてくれました。今、感謝の思いを込めて書きます。』(朝日新聞より)
私は、初めてこの文章を読んだ時に、グッと胸が熱くなりました。
この4人姉妹のお母さんの子供への愛情、心豊かさ、そしてその愛情の伝え方…すべてにおいて感心しました。もし、このお母さんが奮発して友達のところよりも大きな雛人形を買った(物が豊かになった)としても、この4人姉妹の心にお母さんの深い愛情(心の豊かさ)は伝わらなかったと思います。
本当の豊かさとは“人に物を与えること”ではなく、“人に心を与えていくもの”だと思います。人が亡くなったときに残るものは、自分のために集めた物ではなく、人のために遣った心だと言われます。私も、一つ
一つ毎日良い行ないを積み重ねて、これから『お返しの人生』が歩めるよう精進していきたいと思っています。
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