2020年3月 コラム
マザー・テレサから学んだこと
片柳弘史(かたやなぎ・ひろし)
1971年埼玉県生まれ。1994年慶応大学法学部法律学科卒業。1994~95年カルカッタにてボランティア活動。マザー・テレサから神父になるよう勧められる。1998年イエズス会入会。2008年上智大学大学院進学研究修了。同年、司祭叙階。現在は山口県宇部市で3つの教会の主任司祭、3つの幼稚園の講師、刑務所の教誨師。
私がボランティアとして働いていたのは、死に直面した貧しい人たちの最後の世話をする、いわゆる「死を待つ人の家」です。私達はその人々の食事、洗濯、入浴などの介護を手伝っていました。マザーは貧しい人と同じ生活様式を大切にしていたので、施設では洗濯機を使わず、毛布も洗面器に入れて足で踏んで洗っていました。マザーは物質的な支援だけでなく、心の支援を大切にされました。貧しい人々の心に寄り添っていくのです。マザーは、白い木綿のサリーを3枚しか持っておられませんでした。2枚は普段着、1枚は特別な時に着る正装です。
マザーにとって、愛するとは「目の前にいる人をたいせつにすること」に他ならなかったと思います。
近くで見ていて、マザーが相手の愛を伝えるポイントは、
①笑顔 ②キラキラ輝く瞳 ③相手の話をしっかり聞く耳 ④手のぬくもり
の4つでした。マザーはどんなに忙しい時でも、貧しい人を、本当に嬉しそうな笑顔で迎えます。マザーの名声を利用しようとやってくる人には厳しい表情でしたが、苦しみを抱えてやってきた人には、いつも満面の笑みを向けるのです。 そのマザーのお顔を見ると、誰もが安心し、「もう一回頑張ってみよう」という 気持ちになりました。
笑顔で彼らを見つめるマザーの瞳は、まるで貴重な宝石でも見るように、キラキラ輝いていました。人間の瞳は、目の前に本当に大切なものが現れれるとキラキラ輝きます。マザーは彼らの中に、宝石のようにまばゆく輝く、生命の神秘を見ていたのでしょう。
相手の話を聞くとき、マザーはほかのすべてを脇に置き、ただ相手の話だけに集中します。もし話の最中に時計を見るなら、「この後にあなたより大切なことが待っている」というメッセージが相手に伝わるでしょう。逆にマザーは、世界中の全てを脇に置き、目の前の人に集中しました。だから、マザーに会った人たちは、誰もが「自分が世界で一番大切に思われている」と感じたのです。話している間、身体を相手にピタッとくっつけ、相手の手を握るのもマザーの特徴でした。マザーは、まさに全身で愛を語っていたと言ってっていいでしょう。
(生命尊重ニュース 12月号より)