歴史が教えてくれる 日本人の生き方(2) 博多の歴女 白駒妃登美さんより

　今日も、昨日に続いて博多の歴女こと　（株）ことほぎ代表　白駒妃登美さんのお話（第二話）をご紹介させていただきます。
　歴史上の偉人を｢親友｣と位置付けて育った白駒さんは、航空会社で国際線客室乗務員として勤務し、世界を巡りました。その経験と日本の歴史に触れながら、これからの日本人がどのように生きていけば良いのかについてお話されています。

人生を終えるときが最高の自分に

　私は航空会社を三十歳で退社した後、社員研修の場などでお話をさせていただくようになりました。受講者の方々にはいつも、「みなさんが今までに仕事をしてきて最も幸せを感じたのは、どのようなときでしたか？」という質問をしていました。すると、業種や職種、年齢や性別も違う受講者の九割以上が、「確かに“ありがとう”と言われたとき」と答えたのです。働くことが単に契約のためで、自分の時間を金銭に変えることであると思っているのであれば、こんな答えには決してならないはずです。

　「働く」という言葉は、「傍の人を楽にする」が語源だそうです。「傍らの人」とは、すぐ近くにいる人たち、周囲の人たちです。その人たちを「楽にする」「楽しませる」「笑顔にする」ことが働くということであり、日本人にとっては「自分の時間を誰かの喜びに変える」ことが「働く」ことです。このような労働観を持っているからこそ、最も幸せなときが、誰かに「ありがとう」と言われたときになるのです。

　さらに、日本人の労働観にはもう一つの特徴があります。私自信が航空会社の新入社員として研修を受けたとき、ある講師の方からこう教わりました。

「例えばあなたが機内でお客様にお出しするコーヒーは、豆や淹れ方にこだわっているわけではなく、言ってみれば『たかが一杯のコーヒー』です。しかし、あなたの出し方一つで、お客様にとって『されど一杯のコーヒー』になります。コーヒーをお出しするほんの一瞬に、あなたが今までどんな生き方をしてきたのか、全人生が投影されるのですよ」

　このひと言が今でも心に残っています。以来、私はこの言葉を心の支えに仕事をしてきました。接客業ではなく「接遇道」、つまり「おもてなしを極める道」が私の仕事だと考えたのです。仕事に「道」を求め、仕事を通じて自分の生き方を磨き上げてきたのが日本人なのではないかと思います。

　日本人にとって「道」と言えば、まず「武士道」を思い浮かべますが、武士のみならず、農民には農民の、職人には職人の、そして商人には商人の道がありました。また、剣道や柔道、弓道や合気道などには、すべて「道」の字がつきます。書道や華道、茶道や香道などの文化の分野に関しても同様です。つまり日本人は、自分の置かれた場所で「道」を求め、自分の生き方を磨き上げてきた民族なのです。

　フィギュアスケートの浅田真央選手のお母さんは、生前に「フィギュアスケートは、単に勝った、負けたの競技ではないと思うのです。大切なのは、氷の上で、いかにその人の生きざまを見せられるかだと思います」とおっしゃったそうです。ソチオリンピックで浅田選手はメダルに手が届かなかったけれど、その演技を見て、私たちがなぜ感動したのか。それは四分にも満たないあの時間が、彼女の全人生を物語っていたからです。私は、彼女のあの演技こそが「日本人の生き方」なのではないかと感じました。

　日本人が求めた「道」には「ゴールがない」という大きな特徴もあります。私たちは、人生の中で現れる課題をクリアする努力をし、それをクリアするとまた新たな課題を見つけて挑戦します。その繰り返しの中で成長し、死ぬまで高みをめざして自分を磨き上げるのが日本人という民族だと感じます。日本人にとっては、人生を終えるときこそが最高の自分なのです。これはとても素敵なことだと思います。

（中日本生涯学習センターにおいて行われた公開講演の要旨より）

　この続きは、また後日・・・